小林祥泰【島根大学名誉教授・前島根大学学長】 文化部門

 

受賞年月

平成28年2月

受賞理由

日本で初めてのMRIによる脳ドック創設と脳卒中予防に向けた広範なエビデンス集積並びに世界でも稀な日本を代表する脳卒中データバンクの構築、さらには地域医療問題の解決に向けた社会貢献活動など、我が国の脳卒中医療の発展に寄与した数々の功績。

受賞者の経歴

【主な職業】
島根大学名誉教授
島根大学特任教授
前島根大学学長

【学  歴】
1972年3月 慶應義塾大学医学部医学科卒業 

【学位・称号】
医学
博士

【経  歴】
1979年  4月 北里大学医学部内科講師
1980年  4月 島根医科大学医学部附属病院講師
1993年11月 島根医科大学医学部内科学講座教授(〜2005年3月)
1998年  4月 島根難病研究所長・理事併任
2001年  4月 島根医科大学医学部附属病院副院長併任(〜2003年9月)
2005年  4月 島根大学医学部教授
2005年  4月 島根大学医学部附属病院長(専任)(〜2012年3月)
2006年  4月 島根大学理事(医療担当)(〜2012年3月)
2012年  4月 島根大学学長(〜2015年3月)
2015年  4月 島根大学名誉教授・特任教授(現在に至る)

その他、日本内科専門医会会長、日本内科学会認定医制度審議会会長、日本脳ドック学会理事長(現職)、米国内科学会日本支部長(〜2015)、日本内科学会総会講演会会頭、日本脳卒中学会総会会長、日韓脳卒中学会会長、認知神経科学学会会長、日本高次脳機能障害学会学術総会会長、日本神経眼科学会会長などを歴任

 【過去における表彰】
1978年 第4回北里医学会賞
1984年 第8回脳卒中学会賞(日本心臓財団草野賞)
1987年 昭和62年度姿勢シンポジウム優秀論文賞
2004年 出雲市市民功労賞
2010年 日本神経眼科学会功労賞

 【主要著書】
•  Kobayashi S. The relationship of hypertension to vascular dementia. In Olga V, Emery B, et al.(ed): Dementia -Presentations, differential diagnosis and nosology- 2nd Ed. The Johns Hopkins University Press, Baltimore & London, pp291-305, 2003
•  小林祥泰編、脳卒中データバンク(2003年、中山書店)、脳卒中データバンク2005(中山書店)、脳卒中データバンク2009(中山書店)、脳卒中データバンク2015(中山書店)
•小林祥泰著、丸ごと一冊 脳の本、1997年、日本プラニングセンター
主要論文】
•Kobayashi S, Mukono K, Ishikawa S,Tasaki Y. Hemispheric lateralization of spatial contrast sensitivity. Annals of Neurology 17:141-145,1985
•Kobayashi S, Okada K, Yamashita K. Incidence of silent lacunar lesion in normal adults and its relationship to cerebral blood flow and risk factors. Stroke 22:1379-1383,1991
•Yamaguchi S, Tsuchiya H, Kobayashi S. Electroncephalographic activity associated  with  shifts  of  visuospaial  attention. Brain 117:553-562, 1994
•Kobayashi S, Okada K, Koide H, Bokura H, Yamaguchi S, et al. Subcortical silent brain infarction as a risk factor for clinical stroke. Stroke 28:1932-1939,1997
•Notsu Y, Nabika T, Park HY, Masuda J, Kobayashi S, et al. Evaluation of genetic risk factors for silent brain infarction. Stroke 30:1881-1886, 1999
•Matsubara M, Yamaguchi S. Xu J, Kobayashi S: Neural correlates for the suppression of habitual behavior: a functional MRI study. Journal of Cognitive Neuroscience 16:944-954, 2004
•Yamagata S, Yamaguchi S, Kobayashi S. Impaired novelty processing in apathy after subcortical stroke. Stroke 35:1935-1940, 2004
【主要総説】
•小林祥泰. 無症候性脳梗塞の臨床的意義. 神経研究の進歩 45: 450-460, 2001
•小林祥泰. 臨床医学の展望;神経病学 -血管系を中心に- 日本医事新報 4168: 15-21,.

受賞者の業績

 氏の業績は、次のとおりである。

【脳ドック創設と脳卒中予防に向けたエビデンス集積】
氏は1988年に日本で初めてのMRIによる脳ドックを、旧島根医科大学に隣接した島根難病研究所に創設した。脳ドックは世界に類を見ない我が国独特の健診システムとして注目されている。当初から高齢化社会到来を見据えてMRIの最新撮像法だけでなく、脳血流検査、事象関連電位などの脳機能検査、認知機能検査、うつスコア、やる気スコア、重心動揺検査(バランス検査)などを取り入れ、他に例を見ない高機能脳ドックを実施してきた。1992年からは全例にアンケート調査を送付し追跡調査を開始し、現在まで5,000例以上に対して継続し、貴重なエビデンスを発信し続けている日本唯一の脳ドック施設である。そのデータは脳卒中のゲノム疫学にも大きな貢献をしている。この成果は脳ドックのガイドラインの無症候性脳血管障害関連で多数引用され、脳ドック施設認定の基準設定にも活用されている。現在氏は日本脳ドック学会の理事長として、全国の脳ドックレベルのさらなる向上に貢献している。
【脳卒中データバンクの提唱と構築】
厚生省健康21政策審議の諮問委員会の委員に任命された1998年、日本では脳卒中に関する大規模臨床データやエビデンスが殆どないことを指摘し、翌年に厚生省厚生科研費による班研究を立ち上げ、日本初のコンピュータベースの全国版脳卒中データベースを開発した。その後、全国100施設以上の脳卒中中核病院に参加を募り、2013年には10万例を越えるデータを集積し、世界でも有数の脳卒中データバンクを構築した。その中から我が国の急性期脳卒中診療に関わるエビデンスや論文が多数生まれている。さらに参加施設の担当者を執筆者として氏が編集した「脳卒中データバンク」シリーズは、日本の脳卒中のデータブックとしては唯一のものとして高く評価されている。またこのデータベースは各病院の自前のデータベースとしても活用されており、世界でも例を見ないシステムとなっている。2015年度から国立循環器病研究センターに本システムの運営を移管し、さらに大きなデータベースに成長することが期待される。このデータベースはDPC情報を取り込む構造になっており、診療報酬の効率的な改訂や脳卒中対策の具体的な資料に活用でき、今後の我が国の脳卒中医療政策にも多大に貢献すると期待できる。
【地域医療問題の解決に向けた社会貢献活動】
新臨床研修制度のスタートとともに始まった地域医療の崩壊に危機感を覚え、氏は島根大学医学部附属病院長の時代に、地域医療を守るために全国に先駆けて医学部の地域枠入試を実施した。この制度は、へき地出身者に限定、市町村長の面接、地域病院と介護施設での体験の義務化など全国唯一の独創的なものである。その成果は、平成27年度は地域枠入学者の90%以上の卒業生が島根県で初期研修をスタートしたことに現れており、地域医療人の確保育成に大きな貢献をしている。さらに地域医療人をサポートするため、地域医療教育学講座、地域医療支援学講座、地域医療政策学講座、総合医療学講座など新たな講座を次々と設置し、大学院コースとして地域医療支援コーディネータ養成コース、医療シミュレーター教育指導者育成コースといった新たな教育コースを開設し、その支援体制を充実させてきた。さらに米国で最も革新的な地域医療教育プログラムとされるWWAMIプログラムにおいて150人の島根大学教職員を研修させ、国際レベルの医療人育成を図り、その後も米国WWAMIスタッフメンバーとの交流を継続している。このように病院長または学長として、地域医療を中心とする地域問題の解決に、全国のモデルとなるような大きな貢献を果たした。


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