江崎 貴久氏【(有)オズ代表取締役・伊勢志摩国立公園エコツーリズム推進協議会会長】 社会部門

 受賞年月

令和4年2月

受賞理由

氏の環境保全と地域振興を両立させた成幸エコツーリズムの創造と実践を通じ、共生社会の実現に寄与された数々の功績

受賞者の経歴

【現在の主な職業】
有限会社菊乃代表取締役、有限会社オズ代表取締役
伊勢志摩国立公園エコツーリズム推進協議会会長

【学  歴】
1992(平成   4)年3月 私立皇学館高等学校卒業
1996(平成   8)年3月 京都外国語大学外国語学部英米語学科卒業
2015(平成 27)年3月 三重大学大学院生物資源研究科博士前期(修士)課程卒業
2015(平成 27)年4月 三重大学大学院生物資源研究科博士後期(博士)課程進学

【学位・称号】
三重大学生物資源学修士  

【経  歴】
1996(平成   8)年4月 株式会社エトワール海渡入社(~1997年3月)
1997(平成   9)年3月 有限会社菊乃 設立、代表取締役就任
2001(平成 13)年9月 有限会社オズ 設立、エコツアー「海島遊民くらぶ」展開
2005(平成 17)年3月 有限会社オズ 代表取締役就任
2018(平成 30)年2月 伊勢志摩国立公園エコツーリズム推進協議会会長就任

【社会・委員会活動等】
2008(平成20)年8月 三重海区漁業調整委員会委員
2010(平成22)年4月 中京テレビ放送 放送番組審議会委員
2010(平成22)年7月 鳥羽市エコツーリズム推進協議会設立、会長就任
2011(平成23)年6月 NPO法人日本エコツーリズム協会理事
2013(平成25)年4月 環境省中央環境審議会自然公園小委員会専門委員
2013(平成25)年4月 三重漁業協同組合連合会お魚販売促進コーディネーター
2014(平成26)年6月 海上保安部第4管区 友の会理事
2015(平成27)年2月 環境省中央環境審議会臨時委員
2016(平成28)年5月 国立公園満喫プロジェクト有識者会議検討委員
2016(平成28)年7月 鳥羽市観光協会副会長・豊かな漁村づくり推進委員会委員長

過去における表彰
2006年 NPO法人日本エコツーリズム協会「あいたいガイド100人」に選定
2006年 環境省第2回エコツーリズム大賞特別賞受賞(海島遊民くらぶ)
2007年 環境省第3回エコツーリズム大賞優秀賞受賞(海島遊民くらぶ)
2008年 内閣府男女共同参画女性のチャレンジ賞特別部門賞[環境]
2009年 環境省第5回エコツーリズム大賞受賞(海島遊民くらぶ)
2009年 鳥羽市民功労者表彰(海島遊民くらぶ)
2010年 地域づくり総務大臣表彰 個人表彰
2015年 環境省第10回エコツーリズム大賞特別継続賞受賞(海島遊民くらぶ)
2017年 地方自治法施行70周年記念総務大臣表彰
2020年 環境省第15回エコツーリズム大賞受賞(鳥羽市エコツーリズム推進協議会)

 主要著書・論文等

〇「観光立国日本への提言―インバウンド・ビジネスのチャンスをとらえる―」
(著書/部分執筆、2016)監修:早稲田大学商学部、編集:長谷川惠一、出版:成文堂
〇「女性が拓く いのちのふるさと 海と生きる未来」
(著書/部分執筆、2017)編集:下村委津子・小鮒由起子・田中克、出版:昭和堂
〇「新たな観光資源の創出と地域漁業-三重県鳥羽地域を事例として-」(地域漁業学会)(論文、2018)

業  績 : 

氏の業績は、以下の「1.地域振興型のビジネスモデル『成幸』エコツーリズム」、「2.地域への貢献事業-人材育成-」、「3.地域産業の連携に向けて」及び「4.漁業への貢献-漁業と観光の連携-」に大別される。

1.地域振興型のビジネスモデル『成幸』エコツーリズム
 京都外国語大学卒業後、上京し株式会社 エトワール海渡経て、1997年、三重県鳥羽市の家業である旅館海月の経営を行う有限会社菊乃を設立。2001年、将来の持続可能な観光の在り方を見直し実現するため、有限会社オズを設立し、鳥羽市の離島をフィールドに、自然や生活文化を通して環境と観光、教育と観光を一体化させたエコツアー「海島遊民くらぶ」を展開。年間20種類以上のエコツアーを観光客に提供し、現在、女性6名のスタッフと専属漁師部のスタッフから構成され、さらに漁協や漁師、飲食店や加工事業者など多様な事業者が連携する形で、年間7000名の受入れを行っている。その特長は、観光開発のために何も壊すことなく、あるがままの地域を生かし、地域住民と自然に触れ合えるところである。その目的は、地域の資源を生かし田舎の良さ・幸福を感じるだけではなく、人々の過去から将来に至る努力をマネタイズすることで地域全体として具体的な幸せの形を成す「成幸」目指している。その基盤として、漁協との信頼関係の構築に努めたことから、漁協の強い協力体制が維持されている。カヤックやシュノーケルなどの漁場でのアクティビティへの理解だけでなく、エコツアー受入れに対し漁師や市場等、漁村の積極的な協力が行われている。その秘訣は、「ワカメ刈り♪と採れたてワカメしゃぶしゃぶランチツアー」や「お魚ざんまい♪ 漁師さんと船釣りツアー」「漁師船DE無人島シュノーケル」「漁師のアフターファイブツアー ~ちょっとおじゃましまーす~」「船で行く!漁師町の島ランチツアー」などの体験を実施する際に、観光のために漁業者に負荷をかけるだけの体験事業ではなく、漁師の所得向上、漁業振興や漁村振興に具体的に効果的なエコツーリズムを展開していることにある。この受入れ体制を「観光エコシステム」として提唱し、みんなで収益を拡大していくモデルを『成幸』モデルとしている。しかし、他地域への汎用性があるかという点について、疑問視されることもある。実際、このモデルは資源循環や経済の仕組みだけでは機能しない。人材育成がカギであるが、一時的な人材育成事業ではなく、その時代に合わせて人材が育まれる土壌づくりが必要であるとして、人材育成の循環を意識した取り組みを行っている。また、自身としても地域で持続的で本質的な課題解決をする力を身につけるため、2015年より三重大学大学院生物資源学研究科で水産経済の観点から観光研究を開始し、現在博士後期課程に在籍している。 

2.地域への貢献事業-人材育成-
 エコツーリズムは、地域資源を利用する事業であることから、持続可能な地域づくりへの貢献事業も行っている。その代表的な活動として、菅島小学校と2008年から開始した「島っ子ガイド」がある。鳥羽の離島の子供たち特有の課題であるコミュニケーションやプレゼンテーションの力を向上させる目的で行っている。島っ子ガイドは、自分の大好きな島の宝を1つに絞り、その魅力を深掘りすることで自身の伝えたいメッセージを見つけ、ガイディングに盛り込んで練習をする。その成果として、1年に1度の島っ子ガイドフェスティバルを実施し、全国から参加者が訪れ、多くがリピーターとなっている。現在では、隣の神島小学校でも実施されるようになり、IATSSフォーラムなどを経て、ASEAN諸国からの視察・研修の題材ともなっている。こうした取り組みは地域に影響を与えている。菅島では、児童の減少により2018年に休校予定だったが、文部科学大臣賞受賞や道徳の教科書に掲載されるなど、島っ子ガイドの取組評価が島民の誇りとなり、運動が起きたことで現在も休校にはなっていない。また、取り組みが始まってから10年以上が経過し、大人になった島っ子ガイドは、大学進学の道、漁師継承の道などどちらも選択肢になかった道をも選ぶ変化が生まれた。これらのことにより、島全体が未来志向になった。このコロナ禍において、現在の島っ子ガイドは、オンラインツアーとして実施し、取組の継続に尽力している。さらに、他地域の事例ともなり、鹿児島県の徳之島や長崎県の度島等でも、試みられるようになった。

国連におけるエコツーリズムは自然保護、教育、地域振興、観光振興の4本柱が定義となっているが、他国では自然保護が主として行われてきた。日本でも、最初は同じような手法であったが、自然と人とが近い日本では、環境文化として保護と利用が同時に行われてきた風土がある。そのため、人と自然が織りなしてきた文化の切り口からエコツーリズムを実施する方が、日本の地域にはなじみやすかった。海島遊民くらぶは、2001年当時、世界遺産地域やネイチャーツアーが主流のエコツーリズムしかなかった日本で、行政の経済支援無しで民間事業者として初めて里地でのエコツアーを成功させた。それにより、全国各地での可能性が広がったと言える。現在では、地域振興に力を入れた里地でのエコツーリズムは日本型エコツーリズムもといわれ、アジア諸国からの視察を受け入れている。また、笹川平和財団のパラオ地域密着型エコツーリズム専門家委員会委員長を務めながら、インターンシップの受入れや現地指導を行い、パラオ共和国の自国民による持続可能なツーリズムの実践のサポートを行っている。 

3.地域産業の連携に向けて
 現在のエコツーリズム事業で注力していることは、アフターコロナにおけるエコツーリズムの活用方法と、同業社との協同事業である。2010年、鳥羽市内のエコツアー事業者と観光団体や一次産業に行政を交えた鳥羽市エコツーリズム推進協議会を発足し、循環と連携をテーマに活動を始めた。現在では、エコツアー団体は10団体となり、年間6万人前後の観光客が鳥羽市の体験に参加している。さらに鳥羽市周辺市町の同業者も増加していることから、伊勢志摩全体の体験事業者と協力し伊勢志摩国立公園の利用と保護に向けたエコツーリズムを産業として発展させるため、2018年、伊勢志摩国立公園エコツーリズム推進協議会を発足し、一次産業と観光の連携をエコツーリズムの側面から推進している。そして、事業者や行政に加え、伊勢志摩国立公園関内の漁業協同組合、農業協同組合、森林組合も参加し、金融機関も参加している。2020年、コロナ禍において観光産業のほとんどは業種によって対前年対比30~50%減少するなど大打撃を受けた中、エコツーリズムの事業者のほとんどは参加者数において過去最高であったところが多い。それは、海外や首都圏への教育旅行が不可能となり、伊勢志摩へ行き先が集中したことによる。しかし、個人事業のガイドにはそうした恩恵がなく、逆に会社組織での事業者では人材不足になるケースもあったが、協議会のネットワークでガイド人材を流用し各組織の受入れキャパの拡大に対応することができた。これを教訓に、アフターコロナを見据え、オンラインの活用やこれまで活用されていない森の活用など、同業者で取り組むことで災害等に強い観光産業の基盤整備に取り組み始めている。 

4.漁業への貢献-漁業と観光の連携-
 また、これまでの信頼関係から漁業への取組に発展している。最大の懸念事項である気候変動によって地域内で最も影響を受けやすいのは漁業や漁村である。しかし、環境により変化する水産資源をポジティブに捉えることでのみ変化に対応できることから、氏は産品のブランド化にも着手している。特に「答志島トロさわら」のブランド化は、温暖化によって全国に漁獲地域の拡大が見込まれる魚種であるサワラをターゲットに始まった。2016年度より豊かな漁村づくり推進委員会委員長として「関係者増幅による価値と効果の体積倍増化戦略」を現場で具体的に進めた。兵庫県の大和製衡株式会社と協力しフィッシュアナライザの寒サワラの基準データを提供することで、特に脂肪含有率の高い伊勢湾のサワラの計測を可能にした。それを基に委員会で決定したブランド基準は、その日に獲った1本釣りに限った脂肪含有率10%以上のもので、大銘柄(2.1kg)以上、(4.0kg)以下、船上活きジメする等マニュアルに沿った処置などである。しかし、釣り上げる際にフックをかけることでついてしまう傷に対して漁師と仲買や飲食店の間で意見が食い違った。これを克服するために、漁師の代表20名に他地域への視察を実施、話し合いを重ね、漁師自ら魚に網目の跡がつかないタモを変形したサワラーズを考案したことで完全解決した。その他、漁師の守るルールは複数の漁村の漁師が集まり検討しながら自主的に厳格化された。たとえば資源保護のため休漁日が徹底された。その結果、2020年度には、タグ付きのブランド魚はキロ単価68.9%の価格上昇を実現した。ブランド認定漁業者は当初の100%参画を超え、新規事業者も増加したことで158.6%、138事業者となった。20代の若手漁師たちも参画している。現在、サワラの消費があまりなかった関東方面で人気が高まったことで、高騰する時期には、浜値で1キロ¥5000を超える日もある。また、フィッシュアナライザの寒サワラ基準ができたことで、全国の漁村でサワラの同等基準を採用する事例が増えており、気候変動によって打撃を受ける水産業への一助となった。

以上のように、変容を余儀なくされる中、自然にも人にも優しいエコツーリズムの取り組みを、現場を軸に行っており、ひとりひとりが地域の資源を大切にしながら輝く世界の実現を目指して地域に尽力している。

 

 

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