森本公誠 【僧侶(東大寺長老)】 文化部門

受賞年月

平成23年2月

受賞理由

多年、日本におけるイスラム研究の発展と啓蒙に寄与すると共に、イスラム諸国や国際学界・宗教界での交流を通して、イスラム文明理解と宗教間の対話に尽くした業績

受賞者の経歴

【職業】
僧侶(東大寺長老)
【学位】
京都大学文学士、京都大学文学修士、京都大学文学博士
【学歴】
昭和32年(1957年) 京都大学文学部卒業
昭和36年(1961年) カイロ大学留学
昭和39年(1964年) 京都大学大学院博士課程修了
昭和43年(1968年) 京都大学文学博士取得
【経歴】
①東大寺関係
昭和42年(1967年)5月~平成19年(2007年)4月 東大寺塔頭清凉院住職
昭和50年(1975年)5月~平成11年(1999年)4月 東大寺図書館長、東大寺学園常任理事、東大寺財務執事、同教学執事、
同財務執事・勧進部長、同教学執事を歴任
平成11年(1999年)5月  東大寺執事長・華厳宗々務長
平成12年(2000年)8月  東大寺大仏殿主任
平成13年(2001年)5月  東大寺上院院主・東大寺学園理事長
平成16年(2004年)5月  東大寺(第218世)別当・華厳宗管長
平成19年(2007年)5月~ 東大寺長老
平成22年(2010年)5月~  東大寺総合文化センター総長
②大学関係
昭和40年(1965年)4月~平成10年(1998年)3月 京都大学文学部講師(非常勤)
昭和41年(1966年)4月~昭和53年(1978年)3月 大阪外国語大学講師(非常勤)
昭和63年(1988年)4月~平成 元年(1989年)3月 龍谷大学文学部特任教授
【過去における表彰】
昭和50年(1975年)11月 日経経済図書文化賞受賞
平成19年(2007年)  3月 圓山記念文化賞受賞
【主要著書】
『初期イスラム時代エジプト税制史の研究』(岩波書店、1975)
『イブン・ハルドゥーン―人類の知的遺産22』(講談社、1980)
『善財童子 求道の旅-華厳経入法界品・華厳五十五所絵巻より─』(朝日新聞社、1998)
『世界に開け華厳の花』(春秋社、2006)
『聖武天皇 責めはわれ一人にあり』(講談社、2010)
The Fiscal Administration of Egypt in the Early Islamic Period(text translated by Michael Robbins), Kyoto 1981.
【編著】
『講座イスラム2 イスラム・転変の歴史』(筑摩書房、1985)
『シルクロード往来人物辞典』(同朋舎、1988)
『東大寺諸尊像の修理』(東大寺教学部、1994)
【共著】
『イスラム文化の発展』(筑摩書房、1961、1978)
『世界歴史3 オリエント・地中海世界Ⅱ』(人文書院、1966)
『日本と世界の歴史10 13世紀』(学習研究社、1969)
『岩波講座 世界歴史8 中世2』(岩波書店、1969)
『イスラム帝国の遺産』(平凡社、1970)
『大学ゼミナール 東洋史』(法律文化社、1970)
『西アジア・現代アジア論Ⅱ』(旺文社、1981)
『アジア歴史研究入門4』(同朋舎、1984)
『中世の教育思想 下』(東洋館出版社、1985)
『中世史講座2 中世の農村』(学生社、1987)
『シルクロード学の提唱』(小学館、1994)
『岩波講座 世界歴史12 遭遇と発見』(岩波書店、1999)
『宗教者に聞く! 日本編・上』(法蔵館、2007)
『興亡の世界史20 人類はどこへ行くのか』(講談社、2009)
“Views of the world common among various cultures along the Silk Road”,Cultural Diversity and Transversal Values:East-West Dialogue on Spiritual and Secular Dynamics, UNESCO 2006.
【訳書】
イブン=ハルドゥーン『歴史序説』全3巻(岩波書店、1979 ~ 1987)、
同(文庫本)全4冊(岩波書店、2001)
【主要論文】
「 アッバース朝における予算財政について」『東洋史研究』18巻4号、19巻1号、1960
「アッバース朝時代エジプトにおける土地の貸借契約について」『東洋史研究』23巻2号、1964
「初期イスラーム時代のエジプトにおける土地所有について」『史林』54巻1号、1971
「エジプトにおけるアラブ受給者登録簿としてのディーワーン」『オリエント』19巻、1977
「イブン=ハルドゥーンの見たエジプトの司法界」『中近東文化史論叢』藤本勝次・加藤一朗先生古稀記念会、1992
「真言院四天王像内発見 蒙古軍撃退願文をめぐって」『東大寺諸尊像の修理』東大寺教学部編、1994
「アラブ征服期における私的土地所有の起源をめぐって」『東洋史研究』第54巻第4号、1996
「出でよ、第二のイブン=ハルドゥーン―バーミヤン大仏破壊から同時多発テロを経て」『外交フォーラム』163号、2002
「東大寺と華厳経─聖武天皇による華厳経止揚への過程を追って―」『南都仏教』第83号、2003
「北アフガニスタン発見のバクトリア語仏教祈祷文書について」『ザ・グレートブッダ・シンポジウム論集』第1号、法蔵館、2003

受賞者の業績

(1) イスラムの研究・教育・啓蒙

京都大学東洋史学科在学中よりわが国では未開拓であったイスラム研究を志し、1961 ~ 62年にカイロ大学に留学、現地で多数の文献を蒐集し、ギリシャ語・アラビア語パピルス文書とアラビア語史書を対校して、初期イスラム時代エジプトの税制史を明らかにし、学位論文とした。1968年学位取得。以後、イスラム史研究を続け、その成果を学会等で発表するかたわら、京都大学などで後進の指導に当たった。またイスラム世界を代表する歴史哲学者イブン=ハルドゥーンの大著『歴史序説』の翻訳と研究に携わった。これらの研究はできる限り欧文でも発表し、欧米に限らずアラブ諸国を含め、国際学界での評価を得た。
2001年のアメリカ同時多発テロ以来、わが国でもイスラムへの関心が急速に高まり、京都仏教会や知恩院をはじめ、京都・大阪・奈良など各地の寺院ほか宗教界、各地の大学から、イスラムについての講演を求められることが多く、仏教との対比を行ないながら、イスラムの基礎的知識の普及と啓蒙に努めた。

(2)東大寺史・仏教史の研究と海外への発信

東大寺にはかつての学問寺としての伝統がいまだに存在し、50年前にカイロ大学留学を果たせたのも、当時の管長の強い勧めがあったからである。そうしたイスラム史研究で培った方法論を念頭に、日本仏教史の新たな視点による見直しと比較宗教史に取り組み、とりわけ仏教思想史の観点から奈良時代政治史研究に携わった。とくに近著は聖武天皇の人物像とその治績の実態を明らかにしたものである。
また1998年11月、文部省科学研究費事業「イスラム研究」の一環として、アフガニスタン内戦中に発見され、イギリスの蒐集家デヴィド=ハリーリー博士の手に渡ったバクトリア語並びにアラビア語文書の調査のため、ケンブリッジ大学にてジェフリー=カーン博士とロンドン大学のシムズ=ウイリアム教授と面談、翌日ロンドン郊外にあるハリーリー博士の倉庫で未整理の文書20数点を閲覧した。ギリシャ文字によるバクトリア語仏教祈祷文書(紀元5世紀頃)については2002年10月第1回ザ・グレートブッダ・シンポジウムで発表した。
東大寺の意義を海外にも発信できるように、1986年のシカゴ美術館における「東大寺秘宝展」、1999年のドイツ・ケルン東洋美術館における「東大寺宝物展」、2002年のベルリン・世界宗教音楽祭における「お水取り声明」などの企画や公演に深く係わった。

(3)イスラム諸国ほかとの交流と対話

ここ10年あまり、毎年のように外務省や国際交流基金を通じて、イスラム諸国の高位高官や宗教指導者・大学関係者・学校教師などによる東大寺への訪問が多く、その受け入れに当たっているが、一方ではこちらから出かける機会も多い。2003年1月にはイラン、2004年1月にはチュニジアと、各大学や研究所において仏教や東大寺に関する講演を、2003年9月には外務省の対中東文化交流・対話ミッションに参加、サウジアラビア・イラン・シリア・エジプトを訪問した。
2005年11月、パリでのユネスコ主催シンポジウムに出席、フランス国立東洋文化学院での日本仏教史の講演、2007年1月には、2007年が日・印文化交流年であることに因み、カルカッタとニューデリーで講演を行なった。また同年11月には東京と京都でのユネスコ・国連大学ほか共同主催のシンポジウムに参加した。
2008年3月、世界宗教者平和会議学習会で基調講演を行い、同年8月、パリ郊外ベレバでの第2回国際華厳学会シンポジウムに参加した。2010年4月、奈良で開かれた日中韓賢人会議に出席、同年9月にはインドネシア駐在大使館並びにジャカルタ日本人会の招きでジャカルタを訪問、イスラム寄宿塾学校視察、宗教省宗教大臣スルヤダルマ・アリー氏との面談、各界宗教指導者との対話、国立イスラム大学と日本人会での講演を行なった。ほかにも多数の各界シンポジウムに参加したが、省略する。

(4)異宗教間交流

近年、わが国では自殺者が毎年3万人を超え、自分の子や親に対する虐待、無差別殺人など、人心の荒廃や世相の暗さが目立つことに鑑み、宗教者として何かできることはないかと、京都や奈良などの伝統的寺社の代表者が協議を重ねた結果、関西150の神社と寺院が相寄って神仏霊場会を結成、種々の活動を行うこととし、2008年3月、初代会長に選出され、任期の2010年4月まで務めた。


ページ上部へ