受賞年月
平成15年2月
受賞理由
多年、大気と海洋の相互作用を中心とする研究の発展と教育に尽くした功績
受賞者の経歴
【学歴】
昭和30年 3月 京都大学理学部地球物理学科卒業
昭和32年 3月 京都大学大学院理学研究科地球物理学専攻修士課程修了
昭和35年 3月 同 博士課程単位修得退学(文部教官助手就任のため)
昭和37年 3月 同 博士課程修了 京都大学理学博士
【職歴】
昭和35年 4月 文部教官 京都大学助手
昭和38年 9月 外国出張 シカゴ大学地球物理学教室リサーチ・アソシエイート、
兼 米国フルブライト研究員(昭和40年3月まで)
昭和40年10月 京都大学理学部助教授
昭和46年 4月 東北大学理学部教授[海洋物理学講座担任]
昭和60年 3月 外務事務官[国際連合局]併任(6日~28日)
ユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)第13回総会等に政府代表として出席のため
平成 2年 4月 東北大学附属図書館北青葉山分館長 併任
平成 6年 3月 定年退職
平成 6年 4月 東北大学名誉教授
平成 7年 2月 海洋科学技術センター研究顧問(平成13年1月まで)
平成 7年 4月 宇宙開発事業団首席研究員(地球観測担当)(平成10年3月まで)
平成10年 4月 宇宙開発事業団地球観測データ解析研究システム 特別招聘研究員(現在に至る)
平成13年 4月 岩手県環境保健研究センター 所長(現在に至る)
《公職歴(主な審議会等の委員歴)》
「文部省関係」
昭和50年 学術審議会専門委員(科学研究費分科会)(昭和51年まで)
昭和54年 同 (昭和56年まで)
昭和55年 測地学審議会臨時委員(平成6年まで)
昭和63年 学術審議会専門委員(科学研究費分科会)(平成6年まで)
昭和63年 日本ユネスコ国内委員会自然科学小委員会調査委員(平成9年まで)
「日本学術会議関係」
昭和47年 地球物理学研究連絡委員会委員(昭和51年まで)
昭和50年 国際協力事業特別委員会(IDOE)委員(昭和53年まで)
昭和53年 地球物理学研究連絡委員会委員(昭和59年まで)
昭和59年 地球物理学研究連絡委員会委員(平成6年まで)
昭和60年 海洋物理学研究連絡委員会委員(平成6年まで)
昭和60年 同 付置CCCO小委員会委員(平成3年まで)
昭和63年 同 付置CCCO小委員会委員長(平成3年まで)
昭和63年 気象学研究連絡委員会委員(WCRP専門委員会)(平成3年まで)
平成 3年 地球物理学研究連絡委員会委員(平成6年まで)
平成 3年 海洋物理学研究連絡委員会委員長(平成6年まで)
平成 3年 国際対応委員会委員(WCRP専門委員会)(平成6年まで)
「総理府関係」
昭和54年 海洋開発審議会専門委員
平成 4年 科学技術会議専門委員
平成 5年 海洋開発審議会専門委員(平成6年まで)
平成 5年 海洋開発審議会委員(平成8年まで)
平成 7年 宇宙開発審議会専門委員(平成8年まで)
平成 9年 科学技術会議政策委員会研究評価小委員会委員(平成12年まで)
「人事院関係」
昭和48年 国家公務員採用上級甲種試験試験専門委員[物理](昭和57年まで)
《主な学会役員歴》
昭和46年 海洋気象学会理事(平成7年まで)
昭和56年 流れの可視化学会理事(昭和57年まで)
平成 3年 日本海洋学会会長(平成7年まで)
《主な国際機関・組織の委員・役員歴》
昭和56年 ICSU海洋研究科学委員会(SCOR)委員(昭和59年まで)
昭和58年 ICSU海洋研究科学委員会(SCOR)政府間海洋学委員会(IOC)合同の気候変動と海洋に関する委員会
(CCCO)委員(平成2年まで)
昭和62年 ICSU海洋研究科学委員会(SCOR)委員(平成3年まで)
平成 3年 国際海洋物理化学協会(IAPSO)執行委員会委員(平成7年まで)
平成 4年 ICSU海洋研究科学委員会(SCOR)ワーキンググループ101
「風の海面摩擦係数における風波状況の影響」共同議長(平成7年まで)
平成 7年 国際海洋物理化学協会(IAPSO)副総裁(平成11年まで)
平成13年 国際海洋物理化学協会(IAPSO)アルベルト1世メダル受賞者選考委員(現在に至る)
《主な関係団体歴》
平成 元年 国際科学技術財団日本国際賞審査委員(平成2年まで)
平成 2年 財団法人日米教育交流振興財団評議員(現在に至る)
平成 4年 社団法人日本淘道会(文部科学省生涯学習政策局社会教育課所管理事(現在に至る)
平成 6年 財団法人日本気象協会東北本部相談役(現在に至る)
平成 8年 財団法人インテリジェント・コスモス学術振興財団選考委員(現在に至る)
平成 9年 財団法人日本海洋科学振興財団評議員(現在に至る)
平成 9年 地球フロンティア研究システム運営委員(現在に至る)
平成11年 地球観測フロンティア研究システム運営委員(平成14年まで)
【受賞等】
昭和61年 6月 オーストラリア国 科学省海洋科学客員フェロー
平成 元年 4月 日本海洋学会賞「海面における物理過程に関する研究」
平成 5年 1月 可視化情報学会功労賞
受賞者の業績
氏は昭和30年3月京都大学理学部地球物物理学科を卒業、大学院に進み、昭和37年3月博士課程を修了し、風波の砕波による気泡と海水滴の生成の研究で京都大学理学博士を受けた。それより先、昭和35年4月に京都大学理学部助手となったが、上記の論文が認められて昭和38年9月から40年3月まで、シカゴ大学よりリサーチ・アソーシエートとして招聘され、海面起源の海塩粒子の大気中での輸送と分布様式の研究を進め、昭和42年にはスイスで開かれた国際測地学地球物理学連合の総会で招待講演をするなど、国際的な研究活動を始め、その後現在まで継続して、大気と海洋の相互作用の分野で国際的な研究者として活躍している。
昭和46年4月に東北大学教授として、理学部に新設された海洋物理学講座を担任し、平成6年3月の定年までに数十人の学生を育て、その中から、北大から琉球大、ハワイ大まで、海洋物理学を担任する教授・助教授十数人をはじめ、気象庁、海上保安庁、水産庁などで幹部として活躍している多くの人 材を輩出した。
氏の研究業績について述べれば、大気と海洋の相互作用は、人類の活動に関わる地球環境変化や、その基礎となる気候システムの変動・変化の最も基本的な要素であり、風波を含む海面境界過程はその重要な素過程である。氏は、風波を契機とする海面の物理過程から大規模な大気海洋相互作用、さらにその人工衛星による観測にいたる一連の分野において、独創的な手法で数々の業績を挙げた。例えば、テ レビで放映される気象庁の毎日の波浪予報にも、昭和の終わりから平成にかけて10余年にわたって、 氏の発見した風波の2分の3乗則や、それを基礎に氏が導いた風波の発達方程式が用いられていた。
特に風の作用下にある風波は、無次元の代表波高が無次元の代表周期の2分の3乗に比例する形に縮 退するという統計的な相似則の存在を発見し、また、それと整合性を持って風波スペクトルの高周波側 の主要領域に存在する、風の摩擦速度と風波の周波数のマイナス4乗に比例するスペクトル構造を提唱した。これらは「Tobaの3/2乗則」あるいは「Tobaの法則」および「Tobaスペクトル」、「Toba定数」などと呼ばれて、風波の最も信頼性の高い巨視的な法則性とみなされ、30年たった今も内外の専門書の索引に記されている。 風波の高周波領域のスペクトル密度が風の摩擦速度に依存することは、人工衛星による海上風観測の根拠をなすものでもある。
風波の砕波による気泡と海水滴の生成の問題は、近年、化石燃料の使用による大気中の二酸化炭素(CO2) 濃度の増大による地球温暖化の問題と深く関係がある。人為起源二酸化炭素のかなりな部分は海に吸収されるから、地球温暖化の進行がある程度遅くなっていると現在みなされている。しかし、二酸化炭素の大気海洋間の交換を含む地球上での循環の問題は、まだ十分解明されていない多くの課題を含んでいる。氏は現在、内外の研究者たちと協力して、海面における運動量輸送と気体交換との相似性に着目した、新しい取り組みを進めつつある。
科学行政の面でも、氏は東北大学在任中、多年にわたって地球物理学科主任、大学院の地球物理学専攻主任、各種学内委員のほか、平成2年度から定年の平成6年まで、東北大学付属図書館北青葉山分館長(併任)を勤めたほか、文部省、日本学術会議、総理府(科学技術庁関係)、人事院等に関係する多くの委員、また、日本海洋学会会長、国際海洋物理学協会(IAPSO)副総裁などの要職を勤め、内外の科学行政に貢献するところも非常に大きかった。
さらに東北大学定年後、平成7年に宇宙開発事業団に地球観測データ解析研究センター(現地球観測利用研究センター)が設立されたとき、初代首席研究員としてその初期の業務推進に尽力し、また、平成13年に岩手県環境保険研究センターが設立されるに及び、初代所長として迎えられ、その業務の開始に貢献した。
以上のように、氏の多年にわたる専門分野での研究と、大学・大学院での教育、ならびに関連科学行政に関わる業績と、それらを通じての社会貢献はきわめて顕著である。
授賞理由
氏は生来、優れた知的才能と独創性に恵まれ、人格は温厚誠実で、人間性豊かであり、その業績は研究者並びに教育者として関係者より高く評価されている。それは、例えば東北大学教授として在職中は付属図書館分館長となり、日本海洋学会会長として学会の発展に尽力し、全会員の信望極めて厚く、好評を博していたこと、また、子弟の教育にも熱心で、門下生から教授・助教授十数人を輩出するなど、優れた研究者を多数育成しているところを見ても明らかである。
専門分野の海洋物理学、特に海面境界過程・大気と海洋の相互作用の分野は、現代の人類社会の直面する最も重要な課題に関するものであり、氏の百数十編の学術論文、数冊の和文・英文の著書は、重要な文献となっている。
関連する科学行政面での活躍も著しく、社会的貢献は極めて大きい。