私と一冊の本 孫昊
皆さんは今の生活をどう感じていますか、不安を抱くことがありませんか。
数年前、私は自分の将来がどうなるか心配で心配で眠れない時期がありました。しかし、一冊の本が私を助けてくれました。五木寛之が書いた「不安の力」です。
「我々人間は常に色々な〈不安〉に囲まれつつ生きてゆきます。そして〈不安〉というのは一体何なのか、どんな形をしているのかは誰一人としてもはっきりと見定めた人はいません」この作者の言葉から、恐怖を感じる人は少なくありません。多くの人間の心は脆いもので、何かのきっかけで、すぐに壊れるかもしれません。
子供の頃から私はずっと日本のアニメや漫画が大好きで、日本語を習いたいと思っていました。そんな私を父は日本へ留学させてくれました。ところが、日本での生活は想像していたのとは随分違い、映画やドラマで見たような楽しいものではありませんでした。学費や生活費を賄うために毎日数時間もアルバイトをして、アパートに戻ると寝るだけでした。「こんなはずじゃなかった。僕はこんなことをするために日本へ来たわけじゃない。僕の将来は一体どうなるのだろう」…不安な気持ちの日々でした。そして、私はついにこのような生活にうんざりしました。前に進めない自分に苛立ち、努力するのを諦め、私は次第に家に閉じこもるようになりました。
でも、そんなある日、私の日本語の先生が「君、このままじゃダメだよ!ほら、元気を出して。これ、ちゃんと読んでね。必ず君の力になるよ」と言って、一冊の本を私に手渡しました。
『不安の力』、変わったタイトルだなと思いました。最初は難しくて理解しにくいだろうと思いましたが、読んでいるうちにその考え間違っていると分かりました。作者は不安は決して恐れるものでなく、むしろ己の力に変えられるものであることを私に伝えてくれました。
本の中にこのようなことが書かれています。今、七十歳の作者の体は右手が腱鞘炎、頚椎)はむち打ち症、心臓もずいぶん悪く、いつ死んでもおかしくない状態で、原稿を書きつづけています。
「僕にとって、書くことは生きるということです。本を書いているうちに自分が確かに生きているってことを感じます」この作者の言葉を読んで私の心は震えが止まりませんでした。作者に比べれば、今の自分の苦労や不安はごく小さいものじゃないか。自分は体が丈夫だし、身体的な苦痛もない。ただ不安を抱いてるだけで、そんなに落ち込む必要がないじゃないか。頑張れば自分の苦労や不安は必ず克服できる」そう考えると、私の心は底から勇気が湧き出て、「よし!踏ん張ろう!」と決めました。 次の日、私は先生に電話を掛けました。「ありがとう、先生。やっと分かりました、僕はどうするべきかを」それからの毎日は相変わらず学校やアルバイトで忙しかったのですが、それを苦労や不安に思うことがありませんでした。アルバイトのおかげで、いろいろな人と出会い、日本語が上達し、人とのコミュニケーションを通じて人間的に成長できたように思います。日本での留学の経験は一生の宝物です。
『不安の力』という本は私に生き方を教えてくれました。人間は生まれてからずっとなんとも言えない不安の中で生きています。作者は『不安の力』で「不安には〈不安定〉という意味もあります。だから、不安はものを転がっていくために必要な力である」と言っています。そうです、私が抱いた不安は実は私の弱い心を強くする力になったのです。そう考えると、私は救われました。自分は決して無力な人間ではないと思うようになりました。今の私は前向きで、毎日ちゃんと微笑んで未来へと歩き出しています。
ありがとう、『不安の力』!
ご清聴、ありがとうございました!