伊東俊太郎【東京大学名誉教授】 文化部門

 

受賞年月

平成26年2月

受賞理由

中世科学史をはじめとする科学史研究の数々の業績ならびに西欧文明とアラビア文明との比較をはじめ、五大革命説などの比較文明学における数々の業績。

受賞者の経歴

【主な職業】
東京大学名誉教授、国際日本文化研究センター名誉教授、麗澤大学名誉教授

【学  歴】
1953(昭和28)年 東京大学文学部哲学科卒業
1955(昭和30)年 東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了
1956(昭和31)年 東京大学大学院人文科学研究科博士課程一年修了後退学(東京大学教養学部助手任官のため)
1963(昭和38)年 米国ウィスコンシン大学科学史学部博士課程修了

【学位・称号】
Ph.D.(科学史ウィスコンシン大学 1964年)

【経  歴】
1956(昭和31)年 東京大学教養学部助手(科学史・科学哲学研究室勤務)
1961(昭和36)年 米国ウィスコンシン大学人文科学研究所助手(留学:同38年まで)
1964(昭和39)年 東京大学教養学部専任講師
1966(昭和41)年 東京大学教養学部助教授
1971(昭和46)年 米国プリンストン高等研究所客員研究員(昭和47年まで)
1978(昭和53)年 東京大学教養学部教授
1980(昭和55)年 東京大学理学系研究科科学史・科学基礎論専門課程主任
1982(昭和57)年 米国ウドロー・ウィルソン国際学術研究センター客員研究者(同年5-8月)
1983(昭和58)年 日本記号学会会長(昭和60年まで)
1983(昭和58)年 日本比較文明学会会長(平成14年まで)
1985(昭和60)年 デンマーク、コペンハーゲン大学客員教授(同年4-5月)
1989(平成元)年 英国ケンブリッジ大学・クレアホール客員特別研究員(同年5-7月)
1989(平成元)年 国立国際日本文化研究センター教授
1989(平成元)年  東京大学教養学部併任教授(平成2年まで)
1991(平成 3)年  東京大学名誉教授
1991(平成 3)年  ドイツ、チュービンゲン大学客員教授(同年6-9)
1992(平成 4)年 総合研究大学院大学教授(平成7年まで)
1994(平成 6)年  フランス国立社会科学高等研究院研究指導教授(同年5-6月)
1995(平成 7)年  国際日本文化研究センター名誉教授
1995(平成 7)年  麗澤大学教授、比較文明研究センター所長(平成13年まで)
1995(平成 7)年  国際比較文明学会会長(平成10年まで)
1996(平成 8)年  麗澤大学大学院言語教育研究科教授
1997(平成 9)年  財団法人国際高等研究所学術参与(平成17年まで)
2000(平成12)年 国際比較文明学会終身名誉会長
2001(平成13)年 麗澤大学比較文明文化研究センター長(平成18年まで)
2001(平成13)年 日本科学史学会会長(平成21年まで)
2006(平成18)年 地球システム・倫理学会会長(平成22年まで)
2006(平成18)年 財団法人モラロジー研究所道徳科学研究センター客員教授
2008(平成20)年 公益財団法人モラロジー研究所顧問
2010(平成22)年 地球システム・倫理学会名誉会長

【過去における表彰】
1976(昭和51)年 毎日出版文化賞(共同)
1999(平成11)年 国際比較文明学会より、"Mr. Civilization"の称牌を贈られる
2009(平成21)年 瑞宝中綬章叙勲
2011(平成23)年 日本科学史学会より、『伊東俊太郎著作集』全12巻等による科学史学への貢献により、日本科学史学会特別賞を与えられる。

【主要著書・論文】
『文明における科学』(勁草書房 1976
『近代科学の源流』(自然選書中央公論社 1978
The Medieval Latin Translation of the Data of Euclid  (University of Tokyo Press &Birkhäuser 1980)
『科学と現実』(中公叢書 中央公論社 1981
『ガリレオ』(人類の知的遺産第31巻 講談社 1985
『比較文明』(UP選書 東京大学出版会 1985
『文明の誕生』(講談社学術文庫 講談社 1988
『比較文明と日本』(中公叢書 中央公論社 1990
『ギリシア人の数学』(講談社学術文庫 講談社 1990
『十二世紀ルネサンス西欧世界へのアラビア文明の影響』(岩波セミナーブックス42 岩波書店 1995
『一語の辞典 自然』(三省堂 1999
『文明と自然』(刀水書房 2002
『十二世紀ルネサンス』(講談社学術文庫 講談社 2006
『近代科学の源流』(中公文庫 中央公論社 2007
『伊東俊太郎著作集』全12巻(麗澤大学出版会 2008-2010
『新装版 比較文明』(UPコレクション 東京大学出版会 2013
『変容の時代科学・自然・倫理・公共』(麗澤大学出版会 2013 

受賞者の業績

氏の業績は次の通りである。
(1)科学史研究における業績
氏は1961年、東京大学教養学部・科学史・科学哲学研究室の助手のとき、米国ウィスコンシン大学人文科学研究所(Institute for Research in the Humanities)の所長マーシャル・クラーゲット(Marshall Clagett)教授の許に留学し、中世科学のラテン語写本読解の訓練をうけた。当時17世紀のガリレオ、デカルト等によって始まったとされる「科学革命」のいくつかの成果が、すでに14世紀のスコラ自然学のなかに見出されるという説が提起されており、氏はこれを自らの写本研究において実証しようとして、この方面の研究の中心であった上記ウィスコンシン大学に赴いた。しかし氏はここで、さらに14世紀に先立つ12世紀に、ヨーロッパ学術の大変動があったことを発見し、これがイスラムやビザンツ世界からの大量の科学文献(アラビア語、ギリシア語)のラテン訳によることを知り、自ら12世紀のシチリア島でラテン訳されたと考えられる、ギリシアの数学者ユークリッドの著作Data(『与件』)の現存するラテン訳写本(OxfordParis)に基づき、このテキストを詳細なapparatus criticus(文献批判的校訂)をつけて編集し、博士論文 “The Medieval Latin Translation of Data of Euclid” 1963年に完成した。さらに後、1971年にプリンストンの高等研究所(The Institute for Advanced Study)に客員研究員(Visiting Member)として招かれ、新たに見出されたBerlinおよびDresden写本を含めて、テキストをより完全なものとし、このラテン訳成立の事情をも明らかにして、東京大学出版会およびスイスのBirkhäuser出版社の共同出版として上梓された。これは従来写本からテキストを編むという、これまで日本では殆んど行われていなかったことを、初めてなしとげた画期的業績で、長く科学史学会の国際的遺産として残るであろう。
氏はその後、中世科学の全体的展望、その近代科学への接続などについて、すぐれた研究を行い、その成果は『近代科学の源流』(1978、文庫版2007)にまとめられている。
(2)比較文明論における業績
さきに触れた、12世紀におけるアラビア文明の与えた西欧文明への大きな影響の認識は、従来のヨーロッパ中心的な史観に根本的な変換をもたらした結果、氏は西欧世界がアラビア世界と出会い、その文明を吸収消化し始めて自らも文明として離陸した過程を、科学から哲学、文学の領域まで拡げて明らかにし、その成果は『十二世紀ルネサンス西欧世界へのアラビア文明の影響』(1992、文庫版2006)となって結実し、この見解はその後広く世界史叙述のなかに受け入れられるようになった。さらに、インド文明、中国文明、新大陸文明などへと研究の歩は進められ、世界的規模での文明変容として、「人類革命」「農業革命」「都市革命」「精神革命」「科学革命」の五大変革を経て、現在また第六の変換期「環境革命」に人類は逢着しているとする、グローバルな世界文明論を、日本から提出した。この非西欧中心的な新たな世界史の把え直しは、『比較文明』(1985、新修版2013)その他において提起され、これはこれからの世界文明の見方に大きな影響力をもつであろう。
(3)学会における業績
氏は1983年に、梅棹忠夫氏等とともに日本に「比較文明学会」を創設し、15年間会長をつとめ、この学問の発展に力を尽した。また1995年には「国際比較文明学会」の会長に推され、1999年にはこの学会より、“Mr. Civilization”の称牌をうけ、2000年には終身名誉会長(praeses honoris causa per totam vitam)に挙げられた。このことは氏の比較文明学の業績が、広く国際的にも認められたことを示している。
また氏は2001年より4期(8年間)、「日本科学史学会」の会長をつとめ、2011年には氏の著作集(『伊東俊太郎著作集』全12巻、2008-2010)の刊行を機として、それまでの科学史への貢献に対して、日本科学史学会特別賞が授与された。
さらに、コペンハーゲン大学、ケンブリッジ大学、チュービンゲン大学、フランス国立社会科学高等研究院、米国ウィルソン国際学術研究センターなどの客員教授、客員研究員として、比較文明、科学史、日本思想などを講じ研究し、海外の学会においても、学術活動を行ってきた。


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