尾池和夫【京都大学前総長・京都大学名誉教授・財団法人国際高等研究所所長】 文化部門

受賞年月

平成22年2月

受賞理由

多年、地震学の発展に寄与すると共に、我が国高等教育の進展に貢献した業績

受賞者の経歴

【所属】
京都大学前総長・名誉教授
財団法人国際高等研究所所長
【学位】
京都大学理学士、京都大学理学博士、京都大学名誉教授、国際高等研究所フェロー
【学歴】
昭和34年(1959年)  3月  私立土佐高等学校卒業
昭和38年(1963年)  3月  京都大学理学部地球物理学科卒業
昭和47年(1972年)  3月  京都大学理学博士
【経歴】
昭和38年(1963年)  4月  京都大学防災研究所助手
昭和48年(1973年)  5月  京都大学防災研究所助教授
昭和63年(1988年)12月  京都大学理学部教授
平成  6年(1994年)11月  京都大学評議員(平成8年11 月まで)
平成  7年(1995年)  4月  京都大学大学院理学研究科教授(平成15年12 月まで)
平成  9年(1997年)  4月  京都大学大学院評議員・理学研究科長・理学部長(平成11 年3月まで)
平成13 年(2001年) 4月  京都大学副学長(平成15年12 月まで)
平成13年(2001年)  4月  京都大学体育指導センター所長(平成15年3月まで)
平成15年(2003年)12月  京都大学総長(平成16年3月まで)
平成16年(2004年)  4月  国立大学法人京都大学総長(平成20年9月まで)
平成20年(2008年)10月  財団法人国際高等研究所フェロー
平成21年(2009年)  4月  財団法人国際高等研究所所長
【学会活動等】
昭和60年  4月〜昭和61年  3月 地震学会委員長
平成  3年〜  9年  日本学術会議地震学研究連絡委員会委員長
平成  7年〜  9年  日本学術会議阪神・淡路大震災調査特別委員会委員
平成  7年〜15年  地震予知連絡会委員
平成  8年〜10年  京都府、京都市、大阪府、大阪市活断層調査委員会委員長
平成17(2005)年10月〜平成23(2011 )年9月 日本学術会議連携会員
平成20(2008)年10月〜  日本学術会議地球惑星科学委員会委員
【所属学会、協会など】
日本地震学会、日本測地学会、日本災害学会、災害情報学会、日本活断層学会、長崎県地学会会員、
氷室俳句会副主宰、俳人協会会員、日本文藝家協会会員

【主要著書】
1 978年  中国の地震予知(単著),NHKブックス
1 979年  中国の地震・日本の地震(原題:中国と地震)(単著),東方書店
1 984年  アジアの変動帯(藤田和夫編,分担執筆),海文堂
1 986年  都市の変容と自然災害(石原・大沢・伯野編,分担執筆),日本学術振興会
1 989年  地震発生のしくみと予知(単著),古今書院
1 989年  地震列島にしひがし(単著),日本損害保険協会
1 991年  地震発生のしくみと予知(第2刷)(単著),古今書院
1 992年  日本地震列島(単著),朝日文庫,朝日新聞社
1 995年  活動期に入った地震列島(単著),岩波科学ライブラリー
1 996年  阪神・淡路大震災誌─1995年兵庫県南部地震(分担執筆),朝日新聞社
1 996年  南海地震にそなえる(分担,講演録),高知新聞社
1 997年   日本列島の地震とその観測体制、明日の震災にどう備えるか─阪神・淡路大震災の教訓を踏まえて─
(分担執筆),日本学術会議,日学双書27,1997年8月
1 998年  大震災に学ぶ(分担執筆)1995年兵庫県南部地震と強震動のしくみ,土木学会関西支部,pp.1-42.
1 999年  阪神・淡路大震災調査報告(分担執筆)共通編,地震環境,pp.13 -39.
2 005年  京都大地震は近い(分担執筆),アドスリー
2 007年  新編─活動期に入った地震列島,岩波書店
2 007年  俳景(3)─洛中洛外・地球科学と俳句の風景,宝塚出版
2009年  地震を知って震災に備える─京阪奈地域を中心として─,高等研選書22
2 009年  変動帯の文化─国立大学法人化の前後に,京都大学学術出版会
他多数

受賞者の業績

氏は、京都大学理学部在学中、西村英一教授の研究室において地震学の研究に従事して以来、一貫して地震の発生メカニズムの研究を行っている。京都大学卒業論文は、近畿、四国東部の気象台などの地震気象を収集し、近畿地方のやや深発地震の発生機構を、地震波初動の振幅から計算で求めることを試み、その際、煤書き記録のコピーを取る装置を開発している。
氏は、京都大学に東南アジア研究センターの設立が計画されたことに伴い、東南アジアの地震と火山噴火活動の文献調査を行った。これは後年、スンダ列島のプレートに関する論文において、沈み込むプレートの形状を論じることから、防災事業への貢献や大学の交流に至るまで、スンダ列島に関する様々な業績を残すきっかけとなる調査であった。
また、人工地震による日本列島の地下構造の調査を行う「爆破地震動研究グループ」の主要なメンバーとして各地で観測を行い、日本列島の地殻構造の解明を行っている。北海道ではハイドロフォンによる海中爆破の記録方式を改良し、東北地方では人工地震の記録から東北地方を横断する地殻構造を明らかにしている。そして、世界で初めての微小地震の常時観測によって、上部地殻の下部に地震活動が集中することを明らかにしている。
氏は、近畿地方北部から中国地方東部にかけて、地震を起こしている力は、ほぼ東西方向の圧縮力と南北方向の伸張力が基本で、この地域の地震は、基本的に水平ずれのタイプの断層運動で起こっていることを明らかにし、同時に、微小地震は活断層帯に集中的に発生していることを発見した。このことをきっかけとして活断層を研究する地形学や地質学と地震学との連携が進むこととなった。
微小地震観測用の高感度短周期地震計による深発地震の記録波形を分析し、規模の大きな地震が震源断層面上で何回かに分かれ、ずれ破壊が起こっていることを発見し、震源断層がマルティ破壊を起こすという性質を見いだした。また、沈み込むプレートの上部に起こるやや深発地震では、プレートの沈み込む方向に引っ張る力が働いてプレートの先端側が滑り落ちるように破壊する地震が多いことを指摘し、これらの一連の研究によって京都大学理学博士の学位を得ている。
その後、上宝観測所の坑道を掘削するための現地調査を行い、非常にノイズの少ない観測トンネルを作り、超長周期の地震波観測を行う技術を開発し、更に微小地震の観測にテレメータ方式を導入し、それらの記録から自動的に震源を計算する方式を開発した。この方式は、後に日本列島における標準的な観測方式となり、各地で微小地震観測が行われるようになった。
また、それらのデータを統合して見る試みを行い、後に全国的な観測体制を確立するための先駆的な研究となった。更に短周期地震波記録を記録紙の上に長期間連続して記録するシステムを開発し、微小地震の連続観測を可能とする技術を発展させた。このシステムは国の内外で、コンピュータが活用されるまでの基本的な観測方式として多くの観測点で活用されることとなった。
神戸市の委託調査による神戸の活断層と地震活動の調査に参加し、その調査結果は、「神戸と地震」( 974年)という神戸市の報告書に掲載され、活断層の実在する神戸市には、将来壊滅的な被害は免れないという内容の結論を指摘している。また、地震に先立つ多くの種類の前兆現象を研究し、地震予知の研究を推進するための基礎研究を実施した。とくに、山崎断層を横切る観測用のトンネルを建設し、山崎断層テストフィールドを設置して、各種の実験や観測を実施した。とくに降雨と破砕帯の動きとの関係に着目し、降雨後の異常変動があると地震活動が誘発される現象があることを見い出している。そして、その結果を実際に地震発生の予測に応用することを試み、山崎断層に沿って発生した中規模地震を数日前に予知することに成功している。
また、超長周期の電磁波ノイズの発生を観測して、そのノイズが異常に増加する現象と地震発生の関係を調べた。995年1月7日の兵庫県南部地震の発生直前のノイズの増加をとらえ、雷発生と地震発生の関係を論じている。その結果、電磁現象と地震発生の関係を研究する分野が進展し、現在も世界各地で観測と研究が続けられている。岩石が破壊したときに発生する電磁波を実験的に計測し、その強さを算出して、地殻の浅い部分での破壊から電磁波現象が発生する可能性を見いだしたのである。
氏は、中国のダム誘発地震を分析し、地震活動の活発でない地域で、ダムの貯水が地震を誘発している現象を確認し、水圧と地震の規模との相関を見いだし、東南アジアのダムにおいても同様の現象があることを見いだした。
東アジアの広域について、地震を起こす力の分布を調査し、プレートの相対運動との関係を論じ、その結果、とくに中国東部においては拡張場が存在することを見いだし、また、広い地域間で同期的な地震活動の変化があることを見いだしている。
これらのことから、中国や韓国との合同調査を実施する計画が進められ、東アジアでの地震学の交流の先駆けとなる研究が行われたのである。
氏は、日本の群発地震の研究を行い、その資料を収集し編纂して出版した。その資料は実際の火山活動変化の分析などに利用され、火山噴火予知の分野においても活用されるものとなった。また、火山地域の群発地震の移動現象が噴火活動の予測に役立つことを実例によって示した。また、歴史地震の資料を整理し、とくに近畿の長期間にわたる地震活動を解析した結果、統計的分析から、世紀に入るか入らないうちに地震活動期になり、そのピークは0 8年前後になるという予測を発表した。
995年兵庫県南部地震の発生によってその予測が確認され、次の南海トラフの巨大地震の発生時期が確かな予測として認められることとなった。
また、韓国における調査により、韓国内にも活断層が存在することを示し、詳細な研究が必要であることを指摘し、韓国における地震学分野の発展に大きく貢献した。
氏は、社会に対しても、市民に対する地震の知識の普及につとめ、各種の関連委員会・協会等の行事に積極的に参加し、地震災害の軽減に努めている。
氏は、各地の活断層調査と地下構造の調査を行い、活断層性の盆地や平野の地下構造を明らかにした。その結果をもとに地震と活断層の関係を論じ、また、活断層性盆地の地下水をもとにした文化を「変動帯の文化」と位置づけて幅広く論じるに至った。
また、活断層が震災を生み出すだけの存在ではなく、市民の日常の暮らしや、その時代時代の文化の創出に大きく関わっていることを示し、そのことを「変動帯の文化」と呼ぶことによって、豊富な地下水がもたらしている文化を論じている。俳句やエッセイの出版を通じても、この変動帯の特徴を市民に示している。

高等教育への貢献

氏は、学術研究の傍ら、京都大学の副学長として、学内の論議を重ね、国立大学法人への移行に向けての制度設計を行っている。更にその後も、第24代総長として、国立大学法人化前後の大学運営に携わっている。その信条として『ボトムアップを基本にしたリーダーシップ』を掲げ、粘り強い話し合いの下、無駄なコストの削減や合理化を求められる世情の下、一方で、変化をチャンスと捉え、高等教育すなわち大学における学術・研究・教育の「より自由度を増す」ための新研究体制を創るという目標を掲げ、一方で不変のものとの区別を明らかにしながら、国立大学法人としての新体制をスタートさせている。
氏は、各地の活断層調査と地下構造の調査を行い、活断層性の盆地や平野の地下構造を明らかにした。その結果をもとに地震と活断層の関係を論じ、また、活断層性盆地の地下水をもとにした文化を「変動帯の文化」と位置づけて幅広く論じるに至った。
また、氏は、同時に各種の団体役員に就任して、日本の高等教育の発展に大きく貢献している。とりわけ国立大学協会では、入試委員会委員長として、入学試験と入学資格の在り方を検討し、発展させ、また、評価委員会委員長として大学評価の果たす役目を検討し、法人化による利点を生かす努力を行っている。国による一方的な関与ではなく、各大学の有する建学の精神・自主独立の気風を尊重することが、各大学の学術・教育の発展に深く寄与することを説いている。
氏は現在も、国際高等研究所所長として学術の芽を育てる努力をし、専門分野の研究に携わる傍ら、高等教育のあり方について、提言や様々な実践を行っている。


ページ上部へ