受賞年月
平成27年2月
受賞理由
体外循環の安全性向上及び世界に先駆けた先天性心奇形に対する術式の開発並びに本邦における心臓移植医療の確立、数多くの優秀な後進の育成など、日本における臨床心臓外科医の第一人者として心臓外科学の発展に寄与した数々の功績。
受賞者の経歴
【主な職業】
大阪大学名誉教授
国立循環器病研究センター名誉総長
【学 歴】
1951(昭和26)年3月 京都大学工学部機械工学科 中退
1955(昭和30)年3月 大阪大学医学部 卒業
1961(昭和36)年3月 大阪大学大学院医学研究科 修了
【学位・称号】
医学博士号
【経 歴】
1964(昭和39)年 7月 米国 南カリフォルニア大学に留学 (~昭和41年6月)
1969(昭和44)年12月 大阪大学医学部講師
1976(昭和51)年10月 大阪大学医学部助教授
1978(昭和53)年 1月 大阪大学医学部教授(~平成2年9月)
1986(昭和61)年10月 大阪大学医学部附属病院院長(~昭和63年10月)
1990(平成 2)年 4月 国立循環器病センター病院長(~平成7年3月)
1990(平成 2)年10月 大阪大学名誉教授〈現在に至る〉
1995(平成 7)年 4月 国立循環器病センター総長(平成8年9月)
1996(平成 8)年10月 国立循環器病センター名誉総長(現在に至る)
1999(平成 11)年 6月 財団法人日本心臓財団常任理事 (~平成17年5月)
2000(平成12)年 6月 財団法人循環器病研究振興財団理事長(~平成17年3月)
2002(平成14)年 6月 学校法人大阪薬科大学理事長(~平成17年12月)
2005(平成17)年 4月 財団法人循環器病研究振興財団副会長(~平成24年3月)
2005(平成17)年 6月 財団法人日本心臓財団顧問(現在に至る)
2012(平成24)年 4月 公益財団法人循環器病研究振興財団顧問(現在に至る)
その他、日本心臓血管外科学会、日本人工臓器学会、日本胸部外科学会及び日本循環器学会の各会長を歴任
【過去における表彰】
1995(平成 7年) 日本医師会医学賞
1997(平成 9年) 紫綬褒章
1999(平成11年) 大阪文化賞
2002(平成14年) 勲二等旭日重光章
2003(平成15年) 大阪市市民表彰
2007(平成19年) 文化功労者顕彰
【主要著書・論文】
・Kawashima Y, Omae T, Lakatta EG, ed. :Cardiovascular Disease in the Elderly. Churcill Livingston. Tokyo. Edinburgh. London, Madrid, Melbourne, New York. 1996. pp215.
・Kawashima Y, Takamoto S, ed.: Brain Protection in Aortic Surgery. Elsevier. Amsterdam, Lausanne, New York, Oxford, Shannon, Tokyo. 1997. pp263.
・川島康生 編著 心臓血管外科 朝倉書店、東京.2000. 898頁
・川島康生:心臓移植を目指して‐四十年の軌跡‐ 東京.中央公論事業出版 2009.
・Kawashima Y, et al. Optimum flow rate during total cardio- pulmonary bypass on the basis of circulatory dynamics. J Thorac Cardiovasc Surg 1964;48:1007-1015.
・Kawashima Y, et al. Intraventricular rerouting of blood for the correction of Taussig-Bing malformation. J Thorac Cardiovasc Surg. 1971;62:825-829.
・Kawashima Y, et al. Tran-pulmonary arterial closure of ventricular septal defect. J Thorac Cardiovasc Surg 1977;74:191-194.
・Kawashima Y, et al. Corrective surgery for tetralogy of Fallot without or with minimal right ventriculotomy and with repair of the pulmonary valve. Circulation 1981;64(Suppl II):147-153.
・Kawashima Y, et al. Surgical treatment of complete atrio- ventricular canal defect with an endocardial cushion prosthesis. Circulation 1983;68(Suppl II):139-143.
・Kawashima Y, et al. Total cavopulmonary shunt operation in complex cardiac anomalies:A new operation. J Thorac Cardiovasc Surg 1984;87(1):74-81.
受賞者の業績
氏の業績は、次のとおりである。
・体外循環の病態整理に関する研究
・先天性心疾患の外科治療法開発に関する研究
・弁膜症の外科治療に関する研究
・川崎病を含めた冠動脈疾患外科治療に関する研究
・心移植に関する研究
・世界に先駆け実施し発表した術式の開発
①Taussig-Bing奇形に対するKawashima手術
②複雑心奇形に対するTotal Cavopulmonary Shunts手術
③心室中隔欠損の経肺動脈閉鎖術
④Fallot四徴症に対する経右房経肺動脈手術
⑤川崎病冠動脈病変に対するBypass手術 など
【臨床心臓外科医としての功績】
氏は医学部卒業後、いち早く心臓外科医としての道を選び、大学院在学中に当時世界的にもまだ十分に解明されていなかった、開心術の手段としての体外循環の研究に取り組み、その病態の解明に努め、その立場からの適正循環理論を確立した。この時氏が提唱した適正潅流量は世界的にもその基準値と見做され、体外循環の安全性向上に大きく貢献した。
このようにいち早く補助手段の安全性を確立した氏は、その利点を活かして先天性心奇形の手術に挑み、多くの新しい手術方法を開発した。その数は十指に及び、その中でも4つの方法は現在でも世界中で広く臨床に用いられ、又そのうちの一つであるTaussig-Bing 奇形に対する手術方法はKawashima Operationと呼ばれて成書にも記載されている。今一つ氏がTotal Cavopulmonary Shunt(TCPS)と名付けて発表した単心室とその他の複雑心奇形に対する手術方法も、文献的には屡々Kawashima Operationと呼ばれ、その後改良されてTotal Cavopulmonary Connection(TCPC)と呼ばれ、今日複雑心奇形に対して最も広く用いられる手術方法となっている。
このような国際的な功績の故に、小児科領域の国際雑誌Cardiology in the YoungのHall of Fame欄に世界で5人目の外科医としてその伝記が掲載されている。
【本邦における心臓移植医療を確立した功績】
氏の今一つの功績は、本邦における心臓移植手術への道を開き、それを確立したことである。氏は1964年米国留学中にチンパンジーの心臓を用いた臨床の心臓移植第一例が行われたことを知り、本邦における心臓移植手術の必要性を認識し、Barnard博士が南アフリカにおいて同種心臓移植に成功する1967年よりも以前に、本邦における心臓移植の準備を開始した。即ち1966年に帰国後、直ちにそれに取り掛かったが、Barnardの第一例に続く本邦での第一例が、手術適応や臓器提供者の死の判定に関しての疑惑を生んだことによって、心臓移植の実態を理解していない人達からあたかも心臓移植そのものが不当な医療であるかの如き誤解を受ける事となった。このように心臓移植が人道にもとる医療であるが如き非難や反対論が渦巻く中で、一貫してその必要性、正当性を主張し、学会のみならず、一般国民の啓発にも努めて来た。身の危険を感ずる程の反対論の中でも、氏が行った医師、医学生、更には国民の啓発の為の講義、講演は250回にも及んでいる。
氏は1983年に自ら心臓移植研究会を設立する一方、1990年に大阪大学から国立循環器病研究センターに赴任してからは、同センターにおいても心臓移植に向けての準備と人材の育成に努めた。
そして臨調の答申や、氏が国会で参考人として訴えたことなどもあって漸く臓器移植法が制定されたのは、氏の退任後のことであったが、1999年2月には氏が育てた後継者の松田暉教授によって再開第一例の心臓移植が大阪大学で行われて成功した。又更に3カ月後には氏の退任後に赴任した、氏が大阪大学在任中に育てた北村惣一郎副院長(後の総長)によって第2例が行われて成功しているのである。
その後次第に本邦における心臓移植も心臓手術の一つとして認められ、更に2009年に法律が改定されてからは、急速にその数は増しているが、その成績は反対論者の予想に反して世界に比を見ないほど良好である。又これら今日迄に本邦で行われた200余例の心臓移植のほぼ半数は、氏が育てられた人達によって、氏がその準備をしてきた大阪大学と国立循環器病研究センターにおいて実施されているのであり、氏は将に本邦における心臓移植医療確立の最大の功労者である。
【人材の育成について】
更に今一つ、氏の功績は人材の育成である。大阪大学在任中、氏は殊の外人材育成に意を用い、その一門から多数の臨床医と共に研究者、教育者を輩出している。即ち氏の薫陶を受けてその後医学部教授の職に就いた者の数は氏の退任後も増え続け、欧米の大学に在職する者も含め50名近くに達している。更に国立循環器病センター在職中に氏が直接指導に当った者から心臓血管外科を担当する教授職に就いた者も含めると、60名近くの医学部教授が誕生しているのである。それらの人達が更に多くの人材を育て、多くの人々の医療に当っていることを思えば、本邦、及び世界の医学、医療の発展に尽くした功績は誠に大である。