森 清範氏【北法相宗大本山清水寺貫主】 社会部門

 

受賞年月

平成30年2月

受賞理由

伝統的な観音信仰布教による日本精神文化の復興、および卓抜な書芸による漢字文化の普及と国際交流に寄与した数々の功績

受賞者の経歴

【主な職業】
僧侶(北法相宗大本山清水寺貫主、北法相宗管長)

【学  歴】
昭和34(1959)年 真宗大谷学園大谷高等学校卒業
昭和38(1963)年 花園大学文学部卒業

【学位・称号】
花園大学文学士

【経  歴】
昭和30(1955)年  4月 清水寺貫主・大西良慶和上のもと得度、入寺
昭和38(1963)年  4月 真福寺住職(現在に至る)
昭和38(1963)年  4月 臨済宗円福寺専門道場に掛塔(~昭和40年3月)
昭和50(1975)年  4月 泰産寺住職(~平成24年4月)
昭和54(1979)年  4月 清水寺法務部長(~昭和63年4月)
昭和63(1988)年  4月 清水寺貫主、北法相宗管長(~現在)
平成24(2012)年  4月 宝性院住職(~現在)

【寺外団体役職】
平成  4(1992)年  7月 全国清水寺ネットワーク会議代表(~現在)
平成  6(1994)年  8月 日中韓国際仏教交流協議会副会長(~現在)
平成11(1999) 年 6月 社会福祉法人衆善会名誉顧問(~現在)
平成13(2001)年  5月 銀河系いわて大使(~平成20年3月)
平成17(2005)年  4月 平成洛陽三十三所観音霊場会会長(~現在)
平成19(2007)年11月 岩手県奥州市文化大使(~現在)
平成20(2008)年  4月 希望郷いわて文化大使(~現在)
平成22(2010)年  7月 京都伝統文化の森推進協議会委員(~現在)
平成24(2012)年  4月 東北震災支援「縁」プロジェクト顧問(~現在)
平成25(2013)年  7月 文人連盟会長(~現在)
平成26(2014)年12月 京都書画院顧問・会長(~現在)
平成27(2015)年  1月 数珠巡礼会会長(~現在)

【著  書】
 『心を活かす』(講談社 1994)
『心に花を咲かそう』(講談社 1996)
『人のこころ 観音の心』(日本ビジネスプラン 1998)
『心を練る』(講談社 2000)
『清水寺まんだら』(春秋社 2005)
『一文字説法 観音のこころ』(佼成出版社 2005)
『心の響く』(講談社 DVDBook  2005)
『心で観る』(講談社 DVDBook  2005)
『命こそ仏さま』(日本ビジネスプラン 2009)
『力まない』(三笠書房 2009)
『水は知的生命体である』(風雲社 2009)(共著)
『心を摑む』(講談社 2010)
『こころの水』(角川マガジンズ 2012)
『こころの法話』(大塚巧藝新社 CD  2013)
『見える命 見えないいのち』(日本ビジネスプラン 2014)
『こころの幸』(KADOKAWA  2015)

受賞者の業績

師の主な業績は次の3点に見られる。

(1)伝統的な説法による日本の精神文化としての観音信仰の布教と発揚
師は京都を大きく揺るがした古都税問題が昭和63(1988)年3月の京都市古都税条例廃止によって終息をみた直後に清水寺貫主・北法相宗管長に就任し、寺内外に起こった事態の紛糾を修復することに努めるとともに、いま一度、観音信仰を全国に弘通して、古代から育んできた日本人の精神文化の発揚を願って斬新な活動に着手した。従来から各寺院が行ってきた出開帳と現代的な仏教美術展を組み合わせた「京都・清水寺展」を平成元(1989)年に東京都・小田急グランドギャラリーで開催させ、以後、大阪、愛知、新潟、富山、福岡、京都、香川、北海道で開いて大きな成功を収めた。

次いで平成12(2000)年の本尊御開帳にあたっては江戸期を通じても70日間が最長であった開帳を3月3日から12月3日までの9カ月に及ぶ大胆な方式に改め、新たな法会「青龍会」の創出や著名人の講演「『言』こころ語り」、美術展、芸能奉納「清水檜舞台」など多様な行事を連続させ、期間中に360万人超える参拝者を集めて観音信仰の発揚に多大な成果を挙げた。この方式は平成15(2003)年の奥之院御本尊御開帳などでも採られ、出開帳「京都・清水寺展」を全国に展開させた。
師はこの現代的な出開帳(展覧会)と居開帳(本尊開帳)に併せて名説法をもって全国津々浦々に出向き、わかりやすく親しみやすい伝統的な説教によって日本人が古来より大切にしてきた仏教思想や神仏習合的な日本の心情を現代人の心に復興し、日常生活をしていく上での拠り所として根付かせた功績は大きい。師の説法・法話は今日では寺院行事を離れ、自治体や公的団体の講演会における講話としても全国的な広がりをみせ、寺内外の説法と合わせると年間およそ200回にも及ぶ。足跡は北海道から沖縄に及び、対象は小学生からお年寄りまでと幅広く、ユーモアと日本人の心の機微をとらえた名説法が多くの人に親しまれ、京都はもちろん日本の仏教界を代表する名僧との声望を得るに至っている。
師はまた東日本大震災発生を受けて東北震災支援「縁」プロジェクトなどに参画し気仙沼、宮古、釜石、福島、八戸をはじめとして毎年被災地に赴き、人々に寄り添い法話・法要につとめ観音の慈悲の実践に力を入れている。さらに、清水寺は檀家を持たない祈祷寺であるが、師は師匠大西良慶和上から引き継いだ信者組織に加え、自らの説法活動の中から滑川、名古屋、津軽、那須に新たな信者組織を形成するに至り、観音信仰の布教を確固たるものとするとともに、寺内にあっては寛永再建時の寺観を取り戻そうという本堂ほか国重要文化財8堂塔の「平成の大修理」を進め観音信仰の基盤を盤石のものとしている功績は大きい。

(2)「今年の漢字」揮毫などによる書芸の振興と漢字文化の普及
師は書を書家土岐枝山氏に師事し、僧侶の基本的な素養である書芸を練磨してきた。師の書の巧みさは寺内における朱印帳などのタイトルや木札・案内札、また信者たちに折りに触れて示した名号、法語の筆跡によって知られてきた。その卓抜な書芸が平成7(1995)年に始まった公益財団法人日本漢字能力検定協会による「今年の漢字」発表奉納に協力したことにより新聞・テレビで報じられ広く認められるところとなり、短期間にして「今年の漢字」の行事を年末の風物詩とすることに多大な貢献を果たした。

師の書はあくまでも布教の一環になるものであるが、名筆を慕って各方面から揮毫を求められるに到った。平成24(2012)年に開講した胆江日日新聞社の教養講座「奥州寺子屋」のための「学遊」、同年に奥州市が被災沿岸市町村の人の精神的な支えとしての書の企画に応じた「不撓不屈」「一心合力」、平成28(2016)年の山形村清水寺絆会の贈呈になる長野県庁のための「行不由径」、平成29(2017)年の新築なった金ケ崎町国民健康保険・金ケ崎診療所のための「健幸長寿」など大作の書から小さな色紙・短冊・扇面の書まで惜しみなく書き与えて、法話同様に親しみのある師の書芸に多くのファンを獲得するに至っている。
師は漢字を書することを好み、漢字の持つ意味の豊かさ、訴える力の強さを具体的な書によって示し、漢字文化の普及に寄与している。法話に「一字揮毫」のパフォーマンスを取り入れ、漢字の魅力を伝える話を積極的に展開して日本語の基層をなしている漢字文化の復興につなげている。

(3)国際交流による世界平和の構築への参画
日本の仏教は漢字文化の伝播とともに中国・朝鮮を経由して請来され、日本人の精神文化を築き上げてきた歴史がある。今日、東アジアには不安定な国際情勢が横たわっている中で、仏教徒の間にはこうした歴史によって培われた「黄金の絆」があるのであり、師は平成6(1994)年に絆を一層強めるために結成された日中韓国際仏教交流協議会の発足に参画し、発足以来、副会長として中国・韓国・日本の三国持ち回りの大会開催を支援してきた。

また師は書芸を活かして、書画による中国との交流をめざし毎年開催の日本京都・中国陝西書画合同展に京都書画院顧問・会長として携わってきた。さらにはイスラエル・パレスチナの平和を願って平成22(2010)年に行われた中東和平プロジェクト綾部市実行委員会主催「中東和平プロジェクトin綾部」に参画し平和の書を揮毫し贈呈している。

 


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