受賞年月
平成23年2月
受賞理由
多年、大気・海洋を通しての物質循環の研究を行い、地球化学、海洋学の発展に寄与すつと共に、教育研究と啓蒙活動を通してその普及に貢献した業績
受賞者の経歴
【所属】
北海道大学 名誉教授
【学位】
東京教育大学理学士、東京教育大学理学修士、東京教育大学理学博士
【学歴】
昭和32年(1957年) 3月 静岡県立掛川西高等学校卒業
昭和36年(1961年) 3月 東京教育大学理学部化学科卒業
昭和38年(1963年) 3月 東京教育大学大学院理学研究科化学専攻修士課程修了
昭和41年(1966年) 3月 東京教育大学大学院理学研究科化学専攻博士課程修了
【経歴】
昭和41年(1966年) 4月 北海道大学水産学部講師
昭和46年(1971年)10月 北海道大学水産学部助教授
昭和56年(1981年) 4月 北海道大学水産学部教授
平成 6年(1994年) 4月 北海道大学大学院地球環境科学研究科教授
平成14年(2002年) 3月 北海道大学定年退職 名誉教授
なお、この1966 ~2002年間に当該研究室(水産学部水産化学科分析化学講座と大学院地球環境科学研究科大気海洋圏環境科学専攻化学物質循環講座)に在籍し、学士220名、修士132名、博士42名(単位取得退学後の論文博士を含む。)に学位を与えた。
【学会活動等】
①国際機関における活動
◦ 国際科学会議(ICSU)による海洋研究科学委員会(SCOR)の第44作業委員会大気海洋間物質交換(WG44)委員(1977〜1981)
◦ 環境汚染に関わる諸国際機関(IMO/FAO/UNESCO/WMO/WHO/IAEA/UN/UNEP)による海洋汚染専門家会議(GESAMP) 第14作業委員会大気海洋間汚染物質の交換(WG14)委員(1988〜1989)
◦ 政府間海洋学委員会(IOC)と海洋研究科学委員会(SCOR)による二酸化炭素問題委員会(CO2Panel)委員(1988〜2000)
◦ 国際科学会議(ICSU)による地球圏-生物圏国際協同研究科学委員会(IGBP-SC)委員(1990〜1992)および副議長(1992〜1995)
◦ 世界気象機関(WMO)、国連環境計画(UNEP)、政府間海洋学委員会(IOC)および国際科学会議(ICSU)による地球気候観測システム科学技術委員会(GCOS-JSTC)委員(1991〜1993)
◦ 国際科学会議(ICSU)による海洋研究科学委員会(SCOR)委員(1992〜2003)および副会長(1998〜2002)
◦ 国際標準化機構(ISO)/TC147/SC2/WG54, Alkalinity in Marine Water, 議長(2005〜2008)
◦雑誌 Marine Chemistry [Elsevier]:Associate Editor(編集委員)(1996〜2004)
◦雑誌 Environmental Chemistry [CSIRO]:Editorial Advisory Board(編集委員)(2004〜)
◦雑誌 J. Ocean Univ. China [OUC]:Editorial Member(編集委員)(2005〜)
②国内委員会活動等
◦ 日本学術会議:地球化学宇宙化学研究連絡委員会委員(1985〜1991)、委員長(1991〜1994)、海洋物理学研究連絡委員会委員(1985〜1994)、海洋科学研究連絡委員会委員(1988〜2003)、地質科学総合研究連絡委員会委員(1991〜1994)、地球環境研究連絡委員会(IGBP専門委員会)委員(1994〜1997)、国際対応委員会委員(1991〜1994)
◦ 文部省:学術審議会専門委員(科学研究費分科会, 1987〜1990、1995〜1997)
◦ 科学技術庁:深層大循環調査推進委員会委員(1989)、海洋の物質循環研究に関する調査「縁辺海における物質循環機構の解明に関する国際共同研究」推進委員会委員長(1992〜1997)
◦環境省:独法国立環境研究所研究評価委員会委員(2001〜2006)
◦内閣府:平成15年度[世界青年の船」事業(第16回)指導官(2003〜2004)
④その他
◦日本学術振興会専門委員会グローバル・デザイン委員(1993〜1996)
◦日本海洋科学振興財団評議員(1995〜)、加速器質量分析計調査検討委員会委員長(1995〜1998)
◦財団法人日本科学協会評議員(2006〜)
◦ 地球科学技術推進機構地球科学技術フォーラム委員(1997〜2002)、同/地球変動研究委員会地球温暖化予測グループ委員(1999〜2002)、同/同 炭素循環研究グループ委員(2000〜2002)
◦ 海洋科学技術センター海洋大循環研究会「海洋大循環の実態及びモデルに関する調査」委員(1989〜1990)、客員研究員(1994〜1996)、海洋物質循環研究調査委員会委員(1995〜2003)
◦ 日本原子力研究所研究評価委員会専門委員(1999〜2000)、環境科学研究委員会専門委員(1999〜2002)
◦ 日本海洋開発産業協会海洋環境計測機器(海洋CO2測定関連機器類)の標準化推進委員会委員長(2000〜2004)
◦ 日本エンジニアリング振興協会海洋環境計測機器(海洋CO2測定関連機器類)の標準化推進委員会委員長(2004〜2007)
◦原子力環境整備センター海洋底下処分技術検討委員会委員(1988〜1993)
◦三菱総研高精度データの収集システム調査研究委員会委員(1994〜1996)
◦原子力環境整備センター 海洋底下処分技術検討委員会委員(1988〜1992)
◦テクノ・オーシャン2000組織委員会委員(1999〜2000)、2002諮問委員会委員(2001〜2002)
◦NPO法人海ロマン21理事(2003〜2006)、副理事長(2006〜)
⑤学会活動(定年後退会した学会は除く)
◦ 日本海洋学会:会員(1961以来)、会長(1999〜2003)、編集委員(1985〜1987)、英文誌編集委員長(1991〜1995)、評議員(1973〜1974、1985〜1999、2003〜2009)、海洋教育問題研究部会長(2003〜2007)
◦ 日本地球化学会:会員(発足の1963以来)、評議員(1982〜1985、1988〜1991、1996)、学会賞推薦委員(1992〜1993、1997〜1998)
◦American Geophysical Union:会員(1966以来)
【主な著書】
1972年 (分担執筆)海洋生化学(東京大学出版会)
1972年 (単 著)雨水の分析(講談社)
1978年 (分担執筆)水汚染の機構と解析- 環境科学特論(産業図書)
1978年 (分担執筆) The Tropospheric Transport of Pollutants and Other Substances to the Ocean, National Academy of Sciences,Washington DC.
1981年 (分担執筆) 内湾・沿岸域における沈降・除去過程(日本水産資源保護協会)
1983年 (分担執筆)沿岸域保存のための海の環境科学(恒星社厚生閣)
1983年 (共 著)海洋化学─化学で海を解く─(産業図書)
1985年 (分担執筆)海洋の動態(恒星社厚生閣)
1985年 (単 著) 化学が解く海の謎─赤潮・マリンスノー・マンガン団塊など─(共立出版)
1989年 (分担執筆)海と人類の未来(日本学術振興会)
1989年 (分担執筆)地球化学(講談社)
1990年 (分担執筆)地球環境の危機─研究の現状と課題─(岩波書店)
1991年 (分担執筆)黄砂 大気水圏の科学(古今書院)
1991年 (分担執筆)海と地球環境─海洋学の最前線(東京大学出版会)
1991年 (分担執筆)世界の海に何が起こっているか(岩波ジュニア新書)
1994年 (分担執筆)現代の水産学(恒星社厚生閣)
1995年 (分担執筆)研究者達の海(成山堂書店)
2009年 (分担執筆)海と生命─「海の生命観」を求めて(東海大学出版会)
受賞者の業績
氏は、東京教育大学理学部在学中、三宅泰雄教授の研究室において「海洋からのヨウ素の蒸発」というテーマで地球化学の研究を開始して以来、一貫して化学的手法を用いて大気圏海洋を通しての物質循環が絡む問題を解く研究を行ってきた。その結果は、209編の原著論文と308編のその他論文にまとめられている。そのすべてをここで紹介する紙幅はないので、それらをまとめ、主なもの10項目を掲げると以下のようになる。
- 大気中(対流圏)エアロゾルの平均滞留時間は5日程度で、これに数%の寿命の長い高層(成層圏)エアロゾルが加わり、主に降水によって地面や海面に降下する。また、その降下量は、土壌粒子は黄砂現象、海塩粒子は台風など突発的事件に大きく影響される。
- 荒天下で大量に形成され、深くにまで(水深20mを越すことがある)取り込まれる気泡が大気海洋間の気体物質の交換を支配している。その結果、交換速度(単位面積あたりの交換量)は、やや易溶性の二酸化炭素の方が難溶性の酸素より少なくとも数十%大きい。
- 太平洋深層水が大気中大気CO2を世界で最も多量に吸収できる。そうなった3つの原因は、長期間深海にある間に炭酸塩殻を溶かし込んだ、産業革命以前の大気CO2濃度が低い時代に潜り込んだ、冬の南極海で浮上し、過飽和のCO2を放出していたことである。
- 全海洋の8%の面積しか占めない200m以浅の大陸棚域が、全海洋の大気中CO2吸収量の半分に近い量(10億トンの炭素)を吸収していることを5年間にわたる東シナ海などでの観測から見つけ、CO2を外洋に押し込むContinental Shelf Pump(大陸棚ポンプ)と名付けた。
- 化学的手法で、太平洋深層水は、南極海から流速計より1桁遅い速度で北上し、鉛直渦拡散係数1.2cm2/sec程度で混合し、最高2000年の年齢(潜ってからの経過時間)を持つことを明らかにした。また、2001年には淀んでいた日本海海底の水が一部更新された。
- 海水に難溶の放射性物質の挙動を解析して、海水から物質が除かれる機構に関する“列車と乗客モデル”を提出した。これらは、海水を濾過してもほとんど捕まらないが、急速に沈降する巨大粒子に付いたり離れたりしながら、海底に、そして深い方へ向かう。
- 世界の海でセジメントトラップ実験を行い、大気中CO2の吸収に果たす生物活動の効果を吟味した。その結果、有機炭素/炭酸塩態炭素比は西部北太平洋で大きいが、深さとともに減少し、東部太平洋や大西洋の1km以深の海では、生物活動の効果はほとんどない。
- ケイ酸がないと珪藻が増えられない(逆は必ずしも真ならず)という当たり前の角皆仮説で、有毒赤潮、貝毒、磯焼け、クラゲ、ノリの不作の発生の舞台裏を説明してきた。新生代の主役、珪藻は最も強いが、これだけが増えるとケイ酸濃度が閾値以下になり、他に変わる。
- 海水中のマンガンは、酸化され、粒子となって沈着するが、堆積物中の有機物により還元されて動き出し、また酸化される。この酸化と還元を繰り返しながら、外洋へと運ばれ、鉄とマンガンを主成分とし、重金属を含むマンガン団塊がゆっくり形成する。
- 氷期に大気中CO2濃度が低かったのは、海の生物活動が活発だったからではなく、大洋の深層循環が現在とは異なり、古い深層水が大西洋の海底上に流れ込み、海底のCaCO3を溶かしたからだと、オホーツク海および北太平洋で得た堆積物の柱状試料などからわかった。