田中紘一【(公財)神戸国際医療交流財団理事長・京都大学名誉教授】 文化部門

 

受賞年月

平成24年2月

受賞理由

多年、生体肝移植の確立と普及に寄与するとともに、移植外科学の進展に貢献

受賞者の経歴

【現 職】
公益財団法人 神戸国際医療交流財団理事長
神戸市立医療センター中央市民病院技術顧問
財団法人先端医療振興財団技術顧問
京都大学名誉教授
【学 位】
京都大学医学博士
パドワ大学(イタリア)名誉学士
【学 歴】

昭和35(1960)年  4月 京都大学医学部医学進学課程入学
昭和37(1962)年  4月 京都大学医学部医学科進学
昭和41(1966)年  3月 京都大学医学部医学科卒業
【経 歴】
昭和41(1966)年     京都大学外科入局
昭和43(1968)年     島根県立中央病院外科勤務
昭和50(1975)年     京都大学第二外科研究室 その後助手、講師、助教授
平成  7(1995)年12月~ 平成17(2005)年3月 京都大学大学院医学研究科移植免疫学講座教授
平成13(2001)年  4月~ 平成17(2005)年3月 京都大学医学部附属病院病院長
平成17(2005)年  4月  京都大学名誉教授
平成17(2005)年  4月~ 財団法人 先端医療振興財団副理事長 先端医療センター長
平成17(2005)年  4月~ 平成17(2005)年11月 神戸市立医療センター中央市民病院副院長
平成17(2005)年12月~ 神戸市立医療センター中央市民病院技術顧問(現職)
平成18(2006)年11月~ パドワ大学(イタリア)名誉学士
平成21(2009)年  1月  公益財団法人 神戸国際医療交流財団理事長(現職)
平成22(2010)年  4月  財団法人 先端医療振興財団技術顧問(現職)
【過去における表彰】
平成12(2000)年 上原賞受賞
平成13(2001)年 武田医学賞受賞、大分合同新聞社特別賞受賞
平成14(2002)年 慶応医学賞受賞、日本医師会医学賞受賞
平成16(2004)年 Transplant Asia 2004 ─Lifetime Achievement Award
【所属学会など】
日本移植学会(前理事長・名誉会員)、日本外科学会(名誉会員)、日本臨床外科学会、日本消化器外科学会、
日本肝臓学会(評議員)、日本臓器生物医学会(評議員:任期2011年3月31日)、国際移植学会(評議員)、
ヨーロッパ移植学会、第五期科学技術・学会審議会ライフサイエンス委員、
Editorial Board Member, Liver Transplantation
【主要研究領域】
臓器移植・肝移植・移植免疫・小児外科
【主要著書】
・Living-donor liver transplantation. Surgical techniques and innovations.
(田中紘一 編)Prous Science出版, 2003.
・Evolution of living-donor liver transplantation.
(田中紘一 編)Prous Science出版, 2009.
・Surgical techniques and innovations in living related liver transplantation
(Tanaka.K ,et al,)Ann Surg出版,1993.
【主要論文】
・Yamada T, Tanaka K et al
Selective Hemi-Portocaval Shunt Based on Portal Vein Pressure for Small-for-Size Graft in
Adult Living Donor Liver Transplantation.
Am J Transplant. 2008
・Tanaka K, et al.
Living related liver donor transplantation: techniques and caution.
Surg Clin North Am. 2004
・Koichi Tanaka et al.
Living and cadaveric split-liver donation: methods of overcoming a shortage in liver transplantation.
Curr Poin Organ Transplant. 2001
・Koichi Tanaka et al.
Current Status of Living Donor Liver Transplantation in Adults
Current Opinion in Organ Transplantation. 2000
他、欧文約300編

受賞者の業績

氏の業績は、次のとおりである。

「着想と基礎的研究」
氏は小児外科医として、小児の外科的疾患の治療向上に尽力を傾けてきた。その分野に携わる中で、難病である胆道閉鎖の多くは、根治手術にも関わらず、肝不全で死に至る事が多く、限界を覚えていた。しかし欧米ではこの疾患に対する肝移植で救命でき、1980年代には世界では小児および成人の肝疾患末期患者に脳死者からの臓器提供による肝移植が治療学として確立され、多くの人命が救われていた。
ところが我が国では、脳死概念を巡って論争が繰り返され、肝移植は不可能で多数の患者が移植のために海外に出かけなければならない苦難の状態であった。かかる背景の中で、氏は我が国に肝移植導入の必要性を痛感し、1986年に米国ピッツバークで3ヶ月研修した。この間に我が国で脳死肝移植導入が不可能と判断するとともに、肝臓外科手術の進歩と、肝臓は再生するという臓器特異性に着目し、健常人からの部分肝を移植して患者を救命する方法、いわゆる生体肝移植を着想した。帰国後、肝臓外科学の大家である当時の小沢和恵教授の指導のもとで、1987年より犬を用いて部分肝移植の基礎的研究を行い、手術手技、周術期管理、移植倫理を確立して、1990年6月に京都大学病院で臨床を開始した。
「臨床肝移植の導入と展開」
生体肝移植は、肝臓提供者である健常人への手術侵襲が小さく、リスクが低いことが大前提となる。臓器提供者は全身評価と肝臓評価に基づいて選択されるが、ドイツ・ブレーメンの研究所と協力して、新しい画像診断法を開発し、血管系の立体構築ならびに肝容量評価のソフトウエアを確立した。これに基づいて、手術手技を決定し、健常人に残す肝臓と移植肝の再生に及ぼす解剖学的評価ができるようになった。またドナー手術の実績から肝切除量の安全基準を明らかにした。生体肝移植の初期の頃は、親から子への小児肝移植のみに適応されていたが、その実績が積み重なる中で次第に年長児、さらには成人患者へと適応を拡大した。
氏らは様々な病態を呈する肝疾患末期状態の成人患者にどれだけの移植肝容量があれば、移植肝が再生し、救命できるかを明らかにし、患者体重の0.8%以上が基準となる事を示し、これが世界的な標準となった。さらに、成人へと適応を拡大する為に健常人の肝臓右葉を用いる成人肝移植を1998年に導入した。この結果、世界で成人生体肝移植が普及した。氏らは、成人に対する肝右葉生体肝移植の導入及び安全性確立に加えて、手術手技ではマイクロサージャリーを用いる肝動脈再建、自己の肝臓の一部を残して移植する自己肝温存同所性部分肝移植、代謝性肝疾患の肝臓を用いるドミノ移植、過少グラフを用いて移植可能とする新術式を開発してきた。これらの手術手技の開発によって、適応する疾患を欧米の脳死肝移植と同様となり、成績も同等かこれ以上までに導いた。また周術期管理の工夫とともに免疫抑制療法の発展にも大きく貢献した。わが国で開発された新しい免疫抑制剤Tacrolimus(開発名FK506)は、免疫抑制メカニズムがシクロスポリンと同様であるが、免疫効果および副作用は異なった特徴を持ち、その有効性が極めて高いことが米国の一施設(Pittsburgh大学)から報告された。そこで、生体肝移植における薬物動態および薬物力学を検討するとともに、ポピュレーション解析を試みた。この薬剤クリアランス個体内、個間肝変動をみると、成人では移植後日数や個体間でクリアランスの変動幅は小さいのに、小児では著しい変動幅を認めた。これに基づいて、
小児および成人生体肝移植におけるTacrolimusの免疫抑制剤投与方法を確立した。臓器移植において、肝臓は免疫寛容を獲得しやすい臓器とされ、多くの基礎的研究はある。しかしながら臨床では免疫寛容を導入する研究は少なく、氏らは前向き試験で免疫寛容を達成できる症例を示し、これに関する基礎的研究も進め、大きな成果を得た。
「普及と確立」
氏は生体肝移植の国内外への普及に努め、この分野で世界を大きくリードし、社会に貢献してきた。この方法は健常人の手術が必要なので、倫理性、安全性の観点から緊急避難医療として位置づける傾向にあった。しかし、次第に救命的医療として多くの施設で導入が計画された。これまで我が国では大学病院を中心に70余の病院が生体肝移植を実施してきたが、氏は36施設においてその導入を指導し、普及に努めてきた。これまで世界の多くの施設から多数の移植医を京都大学病院で研修、指導すると共に、コスタリカ、メキシコ、イタリア、中国、シンガポール、サウジアラビア、エジプト等10 ヶ国での生体肝移植の導入に協力し、国際貢献をしてきた。これらの活動を通じて、生体肝移植の肝疾患末期患者の救命的治療確立に貢献してきた。


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